「ファクトフルネス」を読んだ

2020-10-08

2020 年上半期の話題らしい本「ファクトフルネス」を研究室の先生に勧められて読みました。 内容的に 9 割くらい良かったので内容と感想をまとめてみようと思います。

「ファクトフルネス」とは何なのか

この本の題名であるファクトフルネスとは、世界を悲観したり根拠なしで決めつけたりしてしまう人間の本能に惑わされず、事実をもとに客観的に世界を見ることです。

「世界は富める者と貧する者とで分断されている」というような、某セフの CM だったり社会の教科書だったりで叫ばれている悲劇は実態と比べてどうなのでしょうか。 いわゆる先進国に住む人々が想像するような、地球の大半の人々がその日暮らしで精一杯というイメージは、たとえ 2,30 年前はそうだったとしても、現状は何ら変わりないのでしょうか。

実際のところ、世界の大多数はその日の生活に十分な収入が得られている「中間層」に属していて分断などなく、極貧層は一定数いるものの以前よりは少なくなっており、途上国は西洋諸国のそれよりもはるかに速いスピードで生活の質が向上していることをデータが示しています。 人が無意識に決めつけてしまっている世界のイメージはかなり悲観的でドラマチックなものですが、冷静に事実を直視するとそれほど悲観的になることはないとわかります。

この本では、人間が世界を誤った見方をしてしまう要因である「本能」を 10 個に分け、それに惑わされないためのルールを説明しています。

10 の本能

簡単にまとめるとこんな感じです。

  1. 分断本能:二項対立で考えがちである。大半がどこに属しているかを探すこと。
  2. ネガティブ本能:ネガティブな情報に耳を傾けやすい。広まりやすいのはネガティブなニュース。
  3. 直線本能:直線的な変化を予想しがち。直線もいつかは曲がる。
  4. 恐怖本能:テロ、ウイルス、事故…恐怖をもたらすものを過剰に恐れてしまう。リスクを計算して落ち着くべし。
  5. 過大視本能:1 つの数字だけでは大げさに考えてしまう。比較対象となるデータと照らし合わせること。
  6. パターン化本能:枠に当てはめて考えようとする。分類そのものが間違いな場合もある。
  7. 宿命本能:物事は不変で覆らないという思い込み。世界はゆっくりと、絶えず変化している。
  8. 単純化本能:一つの知識で全てを解決しようとしてしまう。得意な道具で何でもかんでも解決しようとしない。数字だけで世界を知った気にならない。
  9. 犯人捜し本能:悪いことがあると犯人捜しに走ってしまう。犯人を探したところで解決にはならない。原因を探すべき。
  10. 焦り本能:緊急時の焦りは冷静な判断力を失い、早く決断しなければと急いでしまう。緊急時こそ正確なデータを頼ること。

巷の報道はこの 10 の本能に訴えかけるもので溢れています。 だから本能に左右されずファクトで世界を見ようということです。

メディアは人間の恐怖心や焦りに訴えかける悪いニュースを流しがちだとは僕自身も感じていましたし、最近で言えば新型コロナの報道で自分も影響されがちだったので心当たりのある内容でした。 一応「メディア批判がしたいわけではない」という記述はありましたが、これを読んで「目が覚めた!私達はメディアに騙されている!」などとメディア敵視に走ってしまう人が続出しそうだなとも感じました。 メディアは広告塔の一形態なので、注意を惹き付けやすいニュースを流すのは当然の帰結だという程度に捉えるのが健全かなと思います。

感想

いくつか書き留めておきます。

数字の評価

ユニセフによると、2016 年に新生児が死亡した数は 420 万だったそうです。 絶対的な評価をすれば、420 万というとてつもない数の赤ちゃんが亡くなる事実は悲しいことですし、世界がものすごく悪いように見えてしまいます。 しかし過去のデータとの比較をしてみると、1950 年は 1440 万人だったのが年々減少しており 2016 年は記録を始めてから最小の数字であるとわかります。 ということは、世界はより良い方向に向かっているとも考えられるわけです。

1 つのデータだけで判断しようとせず比較できる他のデータとの相対評価で判断するべきだというメッセージは、実例がいくつも挙げられていてよく理解できました。 実際研究室に所属して始めて実験をしたとき、実験結果を比較対象なしで「思ったよりイイ」みたいないい加減な評価をしていた心当たりがあり、これは研究をに携わる者として大前提なことができていなかったと反省しています。

トンカチと釘

こんなことわざがあります。

If all you have is a hammer, Everything looks like a nail (トンカチしか持っていなければ、あらゆるものが釘に見える)

これは持っている道具で全ての物事を解決しようとしてしまう、人間の心理的傾向を意味しています。 ファクトフルネスは事実やデータを基本とする考えですが、逆にデータだけ、数字だけを見て世界を知った気になるのは良くないことです。 世界を知るにはデータも必要ですが、それだけでなく自分の目で見て経験することも大事だということも肝に命じておきたいと思います。

これは余談ですが、プログラミングをしている時に何でもかんでもトンカチ(言語、フレームワーク、アーキテクチャ、…)で課題を解決しようとしてしまうのはあるあるです。 ソフトウェアエンジニアとしては個人開発やハッカソンのレベルでしか開発経験がありませんが、手段にこだわりすぎない姿勢は絶対に忘れたくないですね。

ビジョン

著者はアフリカ連合の会議でゲストとしてアフリカの貧困について講演した際、委員長の女性に「グラフや話し方はとても良かった。だけどビジョンがない」と指摘された経験を語っています。 その女性からは「アフリカの貧困問題は良い方向へと向かっているのはわかった。でもあなたにはその先のビジョンがない。私は、貧困を抜け出して西洋諸国に並んだ暁には、私の孫がヨーロッパを新幹線で旅行する日々が当たり前として訪れることを夢見ている」と言われたそうです。

ビジョン将来像という言葉には、僕は一度経験した就活で苦しめられました。 ソフトウェアエンジニアとして働くために就活していましたが、どんな仕事をしたいか、成し遂げたいことは何かと問われると答えることができませんでした。 正直に言って将来のことなんて想像つかないし、考えるだけ無駄ではと思ってしまうほど悩んで、結局これまでの人生で世界を見てこなかったから将来像も持てないんだという結論に至り、社会に出る前の経験と時間の猶予を求めて学部就職から大学院進学へと進路変更した経緯があります。

先程の例と照らし合わせると、ソフトウェアエンジニアとして働きたいというのが「貧困を抜け出したい」にあたり、成し遂げたいことが「新幹線でヨーロッパ旅行できる日々」にあたりますが、著者の言われたその言葉を目にしてようやくビジョンという単語に対しての漠然としたイメージに輪郭が見えてきたかなと感じました。 こういう意外な発見もあることがわかったので、今後も技術の勉強だけでなくビジネス書やキャリア論を読んで自分の糧としていきたいです。

まとめ

研究活動、開発、キャリアと今の自分に非常に役に立つ良い本だったと思います。

ただ、新規感染者数の報道で日々が騒がしくなったコロナ禍の前にこの本が発行されたのには少し驚きもありました。 ある種の予言めいた記述もあり、そういう話が好きな人、「コロナ自粛反対!」と逆張りしたい人の格好のネタとして売れたのが、2020 年上半期ベストセラーという結果につながったのかもと邪推してしまいます。

何にせよ、人を煽りがちな報道に行動を左右されないためには「ファクトフルネス」を実践して冷静になることから始めましょうということですね。

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